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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

2011年

コスモス 掲載歌

1 月 宮里選

天気図の台風の渦北に抜け夏に大きな終止符を打つ

雲速き九月の空を響もしてスノ―ギ―スの大群が来る

コキコキと何かが折れる音たてて七十歳が近づいてくる

面白き日々かも知れぬ七十代 十年日記をつけてみやうか


2月

「あら探しと批評は違ふ」繰り返し諭したまひき鈴木先生

核心を抑へてあとはとらはれず草書のやうな鈴木先生

不妊治療受け始めしと報らせ来ぬアメリカに住む次男夫婦は

子があるは良けれど子なきもまたよろし おほらかたれよ君らの一生(ひとよ)


3月 仲 宗角選

氷見港に雹降る朝を鳶が舞ふ 騒ぐ鴉を見くだすやうに

見失ひ捜し合ひつつ妹と人にもまれてボロ市を行く

さまざまな暖か(あったか)グッズ買ひ揃へ〈いざ帰りなむ〉冬のカナダに



4月  杜沢光一郎選

ガラス窓に見えて動かぬ夜の霧繭のごとくにわが家を包む

重箱を一段増やし太巻きもガイジン向けにお節に加ふ

ノ―カロリーの蒟蒻ばかり食べるアン少し痩せたるやうな気もする

きんとんは〈女子供の食ひ物〉とわが家の男ら食べやうとせず

雪の舞ふ昼を灯して夫と見る六日遅れの箱根駅伝



5月 木畑紀子選

おほらかで少し古風な友の作 歌会始めに入選果たす

語尾長くのばして順に披講さる その七番目友の詠みしは

暖かく伴侶を詠めるうた多し歌会始めの入選作に

平行線二本を加へ〈夫〉とするたつた二画の〈人〉といふ字に



6月コスモス

薄紅の霞のごとく烟りゐき母と訪ねし吉野梅林

鞍馬山の椿に舞へる風花がつぶやくやうな音をたてをり

窓が戸が壁が大きく歪みつつユッサユッサと揺るる数分

塀越しの井の頭通り午前二時帰宅の人の靴音続く



7月コスモス

吉野郷山頂近き工房に筆職人の仕事を目守る

何本も筆を試して穂先まで心の届く二本を選ぶ

「楽しんで書こう」と筆に声をかけ墨をたつぷり含ませてやる

春寒く羽毛コートの襟を立て空に拡がる桜を仰ぐ


8月コスモス

結論を出さずにおくのが会話だと窘められぬ末の娘に

臨書する字のイメージを育てつつゆつたりと磨る奈良油煙墨

生牡蠣にレモンをギュッと絞る時まぶたの奥に松島の海

十六夜の月の光にまばゆかり銀に輝りゐし松島の海


9月コスモス   岡崎康行選

年ごとに我に記念日ふえて来て脳内歴は書き込みだらけ

日本語で自分でに話かけながらぽつりぽつりと短歌を紡ぐ

英語には相応ふ言葉がみつからず「いただきます」を孫に教へる



10月コスモス 小島ゆかり選

戦地より母に届きし父の文(ふみ) カナと漢字の文語縦書き

息子らが言ひ返さなくなりし日に実感したり私の老いを

〈poke-mon(ポケモン)〉を『ジーニアス英和』に見つけたり和英の方には見当たらないが

返事を書く元気が出ぬといわきより「手紙不要」の伝言が来る



11月 コスモス (桑原正紀選)

〈お習字が大好きな子〉でありし日のわが書き初めは堂々と下手

猫二匹身体を伸ばし昼寝する壊れたハープシコードの上に

「今日死ねば明日は死なず」とマクベスの台詞を借りて更に一献

子の妻が身籠りたりと知らさるるテキサスよりのテレビ電話に

逝くもあり生るるもありて我が身内いつしか半ば入れ替はりたり



12月コスモス (影山一男選)

庭に来てハミングバードが蜜を吸ふ好みは赤きランタナの花

ホバリングの羽を休めず蜜を吸ふ 進行形のハミングバード

物干しに蜜の容器を下げて待つ 鳥よ「コッチノ水ハアマイゾ」


バンクーバー短歌会

1月
ピクッとし駆けて逃げゆく仔猫なり「寄ってきたのは君の方だよ」

2月
詠題「湯気」
湖面(うなも)より湯気のごとくに立ち昇り朝のけあらし低くただよふ

3月
(粟津作品、歌会始めの儀に入選に際して)
明るくて固有名詞の懐かしき粟津氏のうた慶事に相応ふ

4月 詠題「雲」
雲間より日の差し初めて長瀞の梅林あはく紅に烟れり

5月
あちこちがややこしくなる七十代 病人英語の語彙が増えくる

6月
嫌なことはどこ吹く風と聞きながす 当てにならぬが夫は元気で

7月
どうみても上手くなけれど堂々と太き字を書く我が連れ合ひは

8月「平和」
「ああ、うまい!煙草は両切りピースだ」と夫は言ひゐき 開き直りて

9月
震災のニュースばかりの三月に次女身ごもると知らせが届く

10月
久々の雨に潤ふ土の香が夜の空気をはやらかくする

11月
音程の狂ふところも味となるほろ酔ひ加減のあなたの歌は

12月

父母の墓前に祈り水天宮の神にも祈るヨメの安産

健康に育つやうにと祈りこめ麻の葉柄の産着を送る




宮 柊二記念館短歌大会

音もなく春の雨降り雁皮紙の手応へ筆にやさしくなりぬ



Gust No.13

One nippy morning
I saw a Chihauhua
with small white shoes on
scurring and sniffing around
as if looking for his dream


Only a few tappings
on my keyboard
would buy me a ticket
to the trip to Spain
....a long dreamed vacation



Gust No.14

Gently stroking her own tummy
she whispers....."Oh, my little Sato !"
Yes, indeed,
her tiny little Sato is in there
kicking her from inside


a flock of dragonflies
swarming around a pond
so close to each other
but not bumping
against each other



"Enjoy your conversation, Mom"
an advice came
from my youngest daughter.
"No smash, no fault,
just keep on rallying"


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